インプラント症例:24回目
2/22(月曜日)です。
今日も『インプラント症例24回目』です。
本日の症例は、多くの問題を抱えていたが、一度に全てを行うことが不可能だったために、
6年程度の歳月をかけて少しずつ治療を繰り返していったケースです。
このような治療方法は、現実問題としてあり得ます。
本来 一番良い方法は、悪いところは最初の段階で全て治療することです。
悪い状態を放置すると病状は悪化してしまいます。
例えば、歯周病 を放置すると歯を支えている骨が吸収してしまいます。
このような場合には、骨が吸収しないうちに抜歯した方が 後の治療が楽にできます。
また、歯周病 を放置すると 歯周病細菌が他の歯へも感染 します。
その結果、本来健康であった歯もダメになってしまうのです。
歯周病の治療 を行っても治らない歯は、抜歯になるのです。
また、このブログでも良く解説する歯根破折 も放置すると骨吸収を起こします。
歯根破折 を起こした場合には、早期に抜歯が必要です。
今回の症例も歯周病 や歯根破折 を起こしていたため、結果的に多くの歯を抜歯することになったケースです。
また後でも解説しますが、神経のない歯が非常に多い方です。
神経がない歯は非常にリスクが高いものです。
それでは、初診時のレントゲンから見てみましょう。
初診時 上顎前歯部の被せ物が脱離を起こし来院されました。
診査の結果、上顎前歯部が歯根破折 していました。
この歯は抜歯となります。
抜歯後の治療方針として、
1.両側の歯を削りブリッジ
2.インプラント
3.義歯(入れ歯)
が考えられます。
しかし、歯根破折した歯の 右側の歯は、神経がない歯です。
(後で神経がない歯を全て図示します)
神経がない歯は、非常に脆いのです。
そのため、今回歯根破折 してしまったのです。
その神経がない歯を ブリッジとして使用するのは、非常にリスクがあります。
このことを患者様にご説明したことろ
インプラント治療をご希望されました。
ブリッジの予後についてのデータは以下を参考にして下さい。
天然歯ブリッジの予後についてのデータ
ただし、問題はこの歯根破折 を起こした歯だけではありませんでした。
多くの問題を抱えていたのです。
まず、神経がない歯が多いのです。
以下のレントゲンの青丸が神経がない歯です。
ほとんどの歯が神経がないのです。
以前の歯根破折のブログをご覧になっていない方は参考として以下をご覧になって下さい。
1.2/11の歯根破折症例
2.1/25の歯根破折症例
3. 1/14の歯根破折症例
4. 1/11の歯根破折症例
5. 1/ 7の歯根破折症例
これ以外にも歯周病等で骨吸収が起こっていた部位もありました。
以下のレントゲン写真は上顎前歯部のインプラント治療が終了した状態です。
ここでもう一つの問題が生じました。
上顎右側の奥歯のブリッジが取れてきたのです。
原因は、一番奥の歯が歯周病による骨吸収が起こっていたために、噛む力に耐えきれず、手前の歯に大きな負担が加わり、手前の歯は歯根破折してしまったのです。
先にも説明したように元々神経のない歯が多く、リスクを抱えていたため、今回の歯根破折という結果につながったのです。
その時のレントゲンが以下になります。
上顎右側の2歯は、抜歯になりました。
抜歯後の治療方針として、義歯もお勧めしました。
この理由として、下顎の右側奥歯も状態としては 良くありませんでした。
将来的には、下顎右側奥歯も抜歯となる可能性が非常に高いのです。
今回 上顎右側奥歯にインプラント治療を行ったとしても 将来的に噛む下顎の歯がなくなる確立が高いのです。
このようなこともご説明し、可能であれば 現時点で 下顎右側の奥歯も抜歯し、右側の上下顎を同時にインプラント治療を行った方が良いことを説明しました。
しかし、患者様は 一度に多くの歯を失うことをご希望されませんでした。
『下顎右側の奥歯は、ダメなのは分かっているが もう暫く使用していたい!』
とのご希望がありました。
そのため、この時点では上顎の右側奥歯にインプラントを埋入するだけの治療計画になりました。
(歯科医師の立場からすれば、右側の上下顎は、一度に治療を行いたいのですが…)
しかし、ここでまた問題があったのです。
同部は骨吸収が起こっており、多くの問題を抱えていました。
いつものように骨吸収の状態を分かりやすくするために骨吸収の状態を線で書いたのが以下になります。
青線が骨吸収を起こす前の骨の位置です。
赤線は、現在の骨の位置です。
骨が吸収してしまったのが分かるかと思います。
緑線は上顎洞です。
上顎洞(緑線の上方)は空洞です。
骨ではなく、穴が開いているのです。
上顎洞の詳細は、以下を参考にして下さい。
上顎洞
以下のレントゲンは、骨吸収の状態と上顎洞をさらに分かりやすくあらわしたものです。
緑色の部分が上顎洞です。
赤色が骨吸収の部分です。
緑色の部分は空洞ですので、骨が存在するのは、
赤色との間だけになります。
奥歯の部分では骨吸収が大きいため、骨の高さがほとんどないのが分かるかと思います。
この骨吸収がある部分にインプラントを埋入するためにソケットリフト法 を応用した治療計画を立てました。
以下のレントゲンが上顎右側のインプラント治療後です。
これで上顎の治療は終了しましたが、下顎にはまだ問題が残っています。
特に下顎の右側奥歯は、この時点ですでに歯がグラグラしている状態でした。
しかし、患者様は抜歯を希望しませんでした。
(困ったものです。私としては、状況が悪化しないうちになんとか抜歯したかったのですが…)
この状態で数年が経過しました。
下顎右側の奥歯がグラグラして噛めないため、左側で噛むことが多くなりました。
そしたこともあり、下顎の左側の奥歯にも問題が生じました。
歯根破折 です。
下顎右側の奥歯は、歯周病等により骨吸収がかなり進行していました。
(予想していたとはいえ 大変なことになってしまいました…)
下顎左側奥歯は、神経がない歯です。
しかも奥歯の欠損を補うために、手前の2歯を固定し、奥に1歯分を付け足しています。
これもブリッジと言います。
こうした方法は、明らかにダメになる治療方法です。
先程もありましたように神経がない歯をブリッジとすることは無理があるのです。
こうなることはある程度予想された結果です。
今回は、下顎の奥歯は 左右とも抜歯に同意していただきました。
そして、下顎の左右奥歯ともにインプラント治療となりました。
以下のレントゲンが治療終了後です。
初診から6年以上の歳月をかけて一応の治療終了となりました。
もちろん、初診時に全ての問題がある歯を治療していれば、おそらく半年程度で治療は終了していたでしょう。
しかし、現実的には今回の症例のように何回かに分けて(ある程度の年月をかけて)治療を行うこともあります。
そのため、将来的にどのような問題が起こる可能性があるのかをきちんと見極めて治療計画を立てることが大切なのです。
私達歯科医師も論文や本 等から学ぶだけでなく、患者様から多くのことを学ぶことがあります。
患者様にあった治療方法というのがあるのです。
次回のブログは2/25(木曜日)になります。
次回も『インプラント症例』です。
今週(2/19〜21)のインプラント手術報告
今週(昨日)のインプラント手術の中から、
難しいケース であったり、
特殊なケース 等を抜粋して、紹介するコーナーです。
昨日は、朝から夕方まで 1日中インプラント手術の日でした。
全て静脈内鎮静法 での治療でした。
最近は本当にこの麻酔で行う方が多いです。
特に午後のインプラント手術は大変な治療でした。
下顎に1本のインプラントを埋入し、
上顎の奥歯には3本のインプラントを埋入しました。
問題が大きかったのは、上顎の奥歯でした。
骨の幅、高さともに非常に吸収していたのです。
インプラント経験の浅い歯科医師であれば、無理なケースであるような難症例です。
このケースはインプラントモニター でしたので、詳細は後日ご紹介します。
上顎の骨幅は、吸収しているところで約3ミリ、
骨の高さは、吸収している部位で約3ミリでした。
本来 上顎にインプラントを埋入する場合 理想的な骨の量は、
骨幅で約6ミリ、
高さで10ミリ以上が必要です。
今回のケースではいかに問題があったかが分かるかと思います。
そのため、
スプリッティング法(リッジエクスパンジョン法) 、
GBR法、
ソケットリフト法 、
PRP法
等 さまざまな治療法を併用してインプラントを埋入しました。
それ以外の治療も多かったので、
麻酔科医も含め、4名の歯科医師でフル回転の1日でした。
使用したインプラントは、
アンキロス インプラント と
ストローマンインプラント(ITIインプラント)
の2種類を併用しました。
このケースは、後日インプラント症例でご報告します。
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現在、新規にインプラント症例集のページを作成しています。
さまざまなケースを見ていただくことにより、よりインプラント治療についてご理解していただきたいと思います。
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