インプラント症例:29回目
3/11(木曜日)です。
今日も いつものように『インプラント症例(29回目)』です。
今までのインプラント症例をご覧になりたい方は、是非スクロールして第1回目までさかのぼって見て下さい。
毎回 この症例ブログでは、単に歯がない部分にインプラントを埋入した という症例ではなく、
さまざまな問題に対し、工夫をして治療したケースをご紹介しています。
本日の症例は、歯周病とインプラント治療の組み合わせによるケースです。
患者様は、当医院に来院される前に 他歯科医院で重度歯周病のため 数本抜歯し、
グラグラしている上顎の歯は、連結したセラミックで固定する必要があるとの診断を受けたそうです。
また、欠損部位に対してはインプラント治療を行うことが必要との説明を受けたそうです。
患者様は、
1.抜歯の必要な歯が多いこと
2.上顎を全てセラミックで治療すると治療費が高額になること
3.治療方法の妥当性
を第三者に判断してもらいたいとのご希望があり、
セカンド オピニオン を希望され来院されました。
それでは、実際の症例を見ながら解説していきたいと思います。
以下が初診時のレントゲンです。
上顎の左側 奥から 3番目 と 4番目が欠損しており、下顎左側奥 2歯も欠損しています。
また、歯を支えている骨の吸収も起こっています。
(骨吸収の状態については後で詳細に解説します)
上顎の前歯部はグラグラ している状態でした。
上顎の右側の奥歯もグラグラ している状態でした。
当医院での歯周病検査 結果から
前医の治療計画のように 歯がない部分は、きちんと歯を作成し(インプラント治療 等で)、
上顎のグラグラしている歯は、被せ物で固定した方が良いことを患者様にお話しました。
この治療計画の理由については、以下の3枚のレントゲン写真の後で解説します。
いつものように 骨吸収の状態を分かりやすくするために 骨吸収の状態を線で書いたのが以下のレントゲンになります。
青線が骨吸収を起こす前の骨の位置です。
赤線は、現在の骨の位置です。
骨が吸収してしまったのが分かるかと思います。
上顎では、歯を支えている骨の量は
前歯部で50%程度(50%の骨は吸収している)、
上顎右側の奥歯で10〜40%(90〜60%の骨が吸収している)
でした。
少しでも分かりやすくするために 歯の長さを矢印であらわします。
支えている骨の量が少ないのが分かるかと思います。
診査の結果、上顎右側の1歯は抜歯と診断しました。
もちろん、可能なかぎり抜歯は避けたいところですが、
完全に治すことができない歯周病の状態の歯を そのままにしておくと
治らない歯から歯周病細菌は、他の歯へと感染 してしまいます。
これは、歯周病が感染症 だからです。
抜歯しないでそのままにしておくと 他の歯もダメになってしまいますのでどうしても抜歯が必要です。
また 感染が取除けないと 歯を支えている骨は どんどんと吸収してしまい、抜歯となった後の治療が難しくなってしまいます。
この1歯の抜歯については、患者様もご理解していただけました。
次に上顎の前歯部の治療方法です。
歯周病治療を行うと歯周病の進行は停止し、骨吸収の進行も停止させることが可能になります。
しかし、基本的には 吸収した骨は元には戻りませんので、歯のグラグラは改善しません。
骨の量が極端に少なくなっているため 噛む力には耐えきれず、ダメになってしまうことが考えられます。
そこで グラグラしている歯 と そうでない歯 を連結する治療法を行う必要性があります。
骨が吸収してしまった歯 と そうでない歯同士を つなぎ 連結することにより 安定が得られます。
こうした治療法を専門用語で“ スプリント治療 ”といいます。
また、先程抜歯と診断した 上顎の奥歯の欠損部を治療する方法もかねて
上顎の奥歯は、ブリッジによるスプリント治療と計画しました。
この点は、前医と同じ治療方法です。
ただし、前医はセラミックで治療を行うという方法であったため、治療費がどうしても高額になってしまいます。
セラミックは保険が適応されませんので、どうしても治療する歯の数が多いと治療費が高くなります。
保険でも上顎の前歯部は、白い被せ物が可能です。
治療費は1歯分で約7.000〜8.000円程度です。(保険3割負担の場合)
ただし、保険の被せ物の材質は限られています。
硬質レジンと言われる プラスチックの歯 しか認められていません。
プラスチックの歯は、どうしても
変色を起こしてしまうため、審美的には良い材質とは言えません。
しかし、今回の治療の中で 可能であれば どうしても行いたい治療があります。
それは、上下顎左側の欠損部の治療です。
下顎左側奥歯の2歯欠損 と
上顎左側2歯欠損は、
このままにしておくと さまざまな問題が起こってきます。
左側で噛めないため、右側や前歯に負担がかかってきます。
現状で、上顎右側 や 前歯部は骨吸収が大きいため、これ以上の負担が加わると ダメになってしまうことが十分考えられます。
左側の欠損部をきちんと噛める状態にすることが 他の歯の将来性を決めると言ってもいいでしょう。
左側の欠損部を治療することが この治療の大きなポイントになるのです。
以下のレントゲンは、上顎左側 と 上顎前歯部の固定(スプリント治療)によるシュミレーションです。
スプリント治療の詳細については以下を参考にして下さい。
スプリント法(グラグラしている歯の固定)
次にインプラント予定部分にも問題がありました。
骨の吸収があったのです。
いつものように 骨吸収の状態を分かりやすくするために
骨吸収の状態を線で書いたのが以下になります。
青線が骨吸収を起こす前の骨の位置です。
赤線は、現在の骨の位置です。
骨が吸収してしまったのが分かるかと思います。
緑線は上顎洞です。
上顎洞(緑線の上方)は空洞です。
骨ではなく、穴が開いているのです。
上顎洞の詳細は、以下を参考にして下さい。
上顎洞
以下のレントゲンは、骨吸収の状態と上顎洞をさらに分かりやすくあらわしたものです。
緑色の部分は空洞ですので、
骨が存在するのは赤線と緑色の間だけになります。
骨の高さが非常に少ない状態です。
同部分は、ソケットリフト法 とGBR法(骨増大法) を併用してインプラントを埋入する計画を立てました。
以下が
歯周病治療 、
スプリント治療 、
インプラント治療が終了したレントゲンになります。
今回の治療で、上顎はグラグラしている歯を固定するため、スプリント法(グラグラしている歯の固定) という治療法を行いました。
確かに歯を削ること自体は、歯にとって決して良いことではありません。
可能であれば 歯を削らない方が良いのです。
しかし、歯周病の検査 や 噛み合わせの検査 等からグラグラしている歯の固定を行わないと
結果的に多くの歯を失うことになると判断したため、今回の治療方法になったのです。
歯を失ってからでは 遅いのです。
また、こうした治療を行う際にも治療費の問題は大きく関わってきます。
今回の治療で最も治療費をかける必要性がある部位は、左側の欠損でした。
この部分できちんと噛めることが 他の歯の負担を少なくする点でも有効な治療方法です。
そのため、治療費削減のために 上顎前歯部はセラミックではなく、保険で連結した被せ物を行いました。
なんでもかんでも治療費をかけるのではなく、さまざまなことを考えれ、費用 対 効果 がきちんと達成できるプランを提示することも歯科医師として重要なことです。
このような問題を多く抱えている患者様の場合、治療後の管理(メインテナンス) が重要になってきます。
せっかく時間をかけ、費用をかけた治療ですからトラブルがおきぬようにしたいものです。
次回のブログは3/15(月曜日)になります。
次回の症例報告では、上顎の骨が非常に吸収していたが、骨移植 等の大きな治療を避けてインプラントを埋入した症例です。
お楽しみに!
お知らせです。
このブログ以外にも 2つのブログを毎週書いているのですが、
現在インプラント基礎ブログ では、『骨粗鬆症治療薬 と 歯科治療の関係』 について 今週から シリーズで解説をしています。
ご興味のある方はご覧になって下さい。
インプラント基礎ブログ(骨粗鬆症治療薬 と 歯科治療の関係)
基礎ブログは、毎週金曜日にアップしています。
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