禁忌症:その2

インプラントの禁忌症について2ページに渡り解説します。 禁忌症:その1はこちら

禁忌症7:喫煙者

喫煙者はインプラント治療を行わない方が良いでしょう。
喫煙者はインプラントがダメになる確率が高いことが、多くの論文からも実証されています。
厳密に言えば、禁忌ではありませんが、リスクは高いと思って下さい。
私個人としてはヘビースモーカーは行いたくありません。
厳しいことかもしれませんが、必ず禁煙して下さい。
また、歯周病の方で喫煙している方も基本的に治らない可能性が高いと思って下さい。
この続きは下記をご覧下さい。 インプラントをしたい人は禁煙しましょう

禁忌症8:麻酔アレルギーおよび薬物アレルギー

麻酔アレルギーについて

インプラント治療の際に既往歴や全身状態について問診を行います。
その際に『歯科治療で麻酔を行った時は必ず胸がドキドキします。これは麻酔アレルギーですか?』という話があります。
これは麻酔アレルギーではなく、麻酔を行ったことによる緊張から起ったことです。
心配はされないで下さい。
何度か歯科治療において麻酔をされた経験がある方は基本的に問題はないと思われます。
治療を行う私達歯科医師サイドも口腔内を診て、治療後(治療経験)がある場合にはおそらく心配はないだろうと判断します。

歯科治療における麻酔薬の多くは『エピネフリン』という薬剤が入っています。
歯科治療におけるエピネフリンの作用は血管を収縮し、止血作用があります。
また、局所麻酔剤の作用を増強させ、その効力を持続させます。
しかし、このエピネフリンに過敏な方が時々いらっしゃいます。
その場合にはエピネフリンを含まない麻酔液を使用し、歯科治療を行います。
また、高血圧や心臓病など、持病のある方は歯科治療で麻酔を使用する際は担当歯科医師に申告して下さい。

薬アレルギーについて

薬のアレルギーをお持ちの方は必ず、申告して下さい。
インプラント治療等の外科治療の際には、通常抗生剤や鎮痛剤を処方します。
当院においても初診時の問診表以外に外科処置前の質問表、担当医の問診等で漏れがないようにしていますが、どの段階においても問題なしとなっていてもいざ薬を処方する際になって始めてアレルギーがあったことや通院歴があることを申告される方がいらっしゃいます。

問診表は必ず、確実に記載して下さい。
また、服用薬によっては重複してはならない薬や飲み合わせが悪い薬もありますので、服用している薬は全て申告されて下さい。
できましたら、薬をお持ちになっていただくのが確実です。
最近は心療内科で安定剤や不眠薬等を処方されている方も多くいらしゃいます。

こうした薬も治療を受ける際には必ず申告する必要性があります。
服用している薬の種類によっては通院している科の先生と連絡をとり、治療が可能かどうかと判断することがあります。

禁忌症9:成長期の子供、高齢者

成長期の子供にインプラントは可能か?

骨の成長が止まらない年齢までは基本的にインプラントは禁忌です。
1996年スエーデンで若年者に対するインプラント治療に関するコンセンサス会議行われ、Kochらが、インプラントは顎骨の成長に対応しないことから、生物学的に成長を終えた後を適応年齢としています。
成長を終えたとは、身長でいえば、3年間で0.5cm以下の成長のことです。
一般的には18歳頃が一つの基準となります。

高齢者にインプラント治療は可能か?

若年者の適応制限に反し、高齢者の制限はありません。
高齢という理由だけでインプラント治療が行えないということはありません。
ただし、高齢であることはさまざまな持病を抱えていることが多いため、インプラント治療をご希望される場合には現在の通院状況や病気の既往、服用薬等を必ず申告する必要性があります。
私自身は90歳近い方のインプラント手術を行ったことあります。
お元気な方でしたので、術後の治癒も良く、良好な経過でした。

禁忌症10:骨粗鬆症 (こつそしょうしょう、osteoporosis)

骨粗鬆症の方のインプラントは禁忌か?

結論から言いますと、絶対的な禁忌ではありません。
その理由として、骨粗鬆症の方にインプラントを行い、その経過を観察した研究においては特に問題はないという論文が多数あります。 しかし、骨粗鬆症の程度にもよりますので、主治医との綿密な連携が必要となります。
骨粗鬆症であってもインプラント治療はあきらめることはなく、きちんと検査を行い、その結果次第では十分可能です。
また、骨密度をあらかじめ測定することも有効な診断になります。

骨粗鬆症の方の手術方法!

骨粗鬆症の方にインプラントを行う場合にはいくつかの注意が必要です。

まず、治療期間です。
通常、インプラントと骨が結合する期間はストローマンインプラント(ITIインプラント)の場合、上顎で3ヶ月、下顎で2ヶ月です。
しかし、骨密度が低い方はその倍の期間にした方がリスクは低いと考えられます。
しかし、この期間については科学的な根拠はありません。
その理由として骨粗鬆症と言っても骨密度には個人差があることと、それ以外の全身的な状態も関係してきます。

また、インプラントの埋入条件によっても違いますので、一概に治癒期間をどれくらい延長した方が良いかは分かりませんが、通常よりも倍程度の期間を待った方が無難だと個人的には思います。

また、インプラントを埋入する際のテクニックがあります。
インプラントを埋入する際にはドリルのようなものでインプラントのホール(穴)を開けていきます。
当医院で使用しているI.T.Iインプラントは通常直径4.1mmというものを使用します。
直径4.1mmのインプラントを埋入するためにはドリルによるホール(穴)は直径3.5mmまで開けます。
3.5mmのホール(穴)に4.1mmのインプラントを埋入するためタイト(きつく)に埋入されるため安定します。
しかし、現実にはドリルでホール(穴)を形成する時に若干のブレがあると形成したホール(穴)は予定より大きくなることがあります。

得に上顎のように柔らかい骨の場合にはそのような傾向があります。
そのため軟らかい骨の場合にはドリルで形成する時に、3.5mmよりさらに小さい大きさまでしか形成せず、そのホール(穴)に4.1mmのインプラントのねじ込むように埋入します。

また、もっと安定させるためにはドリルはほとんど使用せず、キリのようなものを使用し、骨の中央部にそのキリを刺し、上からたたいて穴を押し広げるようにします。
そしてインプラントを先程と同様にねじ込むように埋入します。
これも骨粗鬆症の方(骨密度の低い方)の治療テクニックです。

骨粗鬆症の絶対的禁忌とは!

骨粗鬆症の治療として『ビスフォスフォネート剤』を使用している方です。
ビスフォスフォネートは、骨の代謝が止まってしまい骨が溶けるのを防ぐ反面、骨の治癒も起きませんのでインプラント治療は禁忌になります。

骨粗鬆症のまとめ

骨粗鬆症の方はインプラント治療は禁忌ではありませんが、通院、薬を服用している等があれば、担当医との連携をとり、十分診査する必要性があります。

禁忌症11:『歯ぎしり』や『くいしばり』が強い方

『歯ぎしり』や『くいしばり』は非常に危険!

私達がインプラントを行う際に最も注意するケースの一つが『歯ぎしり』『くいしばり』です。

インプラントは天然歯と違う構造があります。
天然歯は噛んだり、歯ぎしりをすると若干ですが、動きます。
この歯が動くために存在するのが『歯根膜』というものです。
もし、歯に強い力が加わっても歯は動くことにより、力を分散したり、受けた力を弱める働きがあります。
『歯根膜』はクッションの働きをしているのです。

しかし、インプラントにはこの『歯根膜』が存在しないため、噛む力をそのまま受けてしまうのです。
そのため、『歯ぎしり』『くいしばり』がある方はインプラントに過大な力が及ぶ可能性があります。

『歯ぎしり』『くいしばり』が強いと思われる方にはインプラントをお勧めしないこともあります。
(歯軋りを強くしている方は歯を見ると削れている部分が認められます。また歯軋りで天然歯がダメになった場合にはインプラントを行っても同様にダメになる可能性があります)
私が今まで経験した中で、インプラントがダメになった原因で最も多いのがこの『歯ぎしり』『くいしばり』によるものです。(もう一つインプラントがダメになる原因としてインプラント周囲炎があります)

『歯ぎしり』『くいしばり』による『力』はものすごいものです。
私は『歯ぎしり』『くいしばり』をしていない!と思われるかもしれませんが、その頻度や強さに違いはありますが、ほとんどの方がしています。
『ギリギリ』と音として聞こえる方もいれば、まったく音がしない方もいらっしゃいます。

『歯ぎしり』『くいしばり』によって歯はどんどんと削れていくのです。
硬い歯でも、被せ物の金属でも必ず すり減ります。
毎日のことですから、感じないとは思いますが、歯を良く見ると、削れた痕(あと)があります。

『歯ぎしり』『くいしばり』が強い方ですと、歯の1/3程度まで削れている場合があります。
そんなに削れるのか?と思われるかもしれません。
しかし、実際には結構 歯は削れるのです。

インプラントを『歯ぎしり』や『くいしばり』から防ぐ方法!

通常、口腔内にインプラントと天然歯がある場合、インプラントに被せ物を装着する際には、天然歯よりも若干低くします。
低くといっても200ミクロン程度であり、見た目で分かることはありませんし、噛んで感じることもありません。

先程書きました『歯根膜』の範囲内です。
ぐっと噛んだ時に天然歯は沈みこみ、インプラントと同じ高さになります。
このようにインプラントに負担がかからないように調整を行います。

しかし、この高さの調整はずーっと普遍なわけではありません。
またこの調整のみでは夜間の『歯ぎしり』『くいしばり』による過大な力には対抗できません。

そこでこの『歯ぎしり』『くいしばり』からインプラントを保護するのが、『ナイトガード』と言われるものです。
簡単に言えば、『マウスピース』です。
これはスポーツをする人が使用しているものと同じような装置です。
ボクシング、ラクビーといったスポーツ選手が使用するものとほぼ同じものです。
『ナイトガード』保険診療が適応されますので、『歯ぎしり』『くいしばり』を自覚されているか、歯科医院で指摘された場合には是非作製された方がいいでしょう。

禁忌症12:歯周病の治療をしない方(歯磨きをきちんとしない方)

インプラントは人工のものですが、歯肉が腫れてきたりすることがあります。
これを『インプラント周囲炎』と言います。
インプラント周囲炎とは、インプラントが歯周病と同じような症状になることです。

インプラント治療後に歯ブラシが不十分になると汚れは歯肉とインプラントの境目から内部に侵入していきます。
この汚れは歯周病細菌と同様の細菌です。
そして初期の段階ではインプラント周囲の歯肉が腫れて行きます。

その後インプラントを支えている歯槽骨を吸収してしまいます。
最終的にはインプラントはダメになり、撤去することになります。

また、天然歯が歯周病であると天然歯の歯周病細菌がインプラントにも感染します。
そのため、インプラント治療を行う際には歯周病の検査は必ず行います。
そして、歯周病の問題があった場合には、先に歯周病の治療を完了させなければなりません。

しかし、歯周病の治療を行わなかったり、歯ブラシを行わない方にはインプラント治療は行いません。
歯ブラシをしない方にインプラントをしてもダメになるからです。
インプラントは人工のものだから歯ブラシをしなくても大丈夫ということはありません。
天然歯と同様に行う必要性があります。

特に天然歯がダメになり、インプラントを検討している場合には注意が必要です。
天然歯が歯周病でダメになったということは歯ブラシの仕方に大きな問題があったということです。
相当に歯ブラシに対する意識の改善をしないかぎり、単に歯がない部分にインプラントを行っても必ずインプラントにも歯周病細菌は感染し、ダメになります。
歯ブラシがきちんとできない方や歯周病治療をきちんと受けない方にはインプラント治療は行えません。

禁忌症1もご覧下さい。 禁忌症:その1