ソケットリフト法

上顎の骨の解剖学的な構造と特殊なインプラント治療についてお話します。

GBR法でも説明しましたが、インプラントを行うにあたりインプラントを植立するための骨幅や骨の高さがない場合、そのままの状態でインプラントを行うと成功率は非常に低くなります。
実際には上顎においてはインプラントを行うための骨が不足していることの方が多く、60~70%の方は骨の増大なくしてインプラントを行うことは不可能です。
以下に上顎の骨の解剖学的な構造と特殊なインプラント治療についてお話します。

上顎洞とは?

上顎の奥歯の上に存在する骨の空洞になっている部分のことです。
この空洞は頬骨の奥に存在し、鼻腔へとつながっていて、鼻柱骨により左右に分かれています。この上顎洞の働きは完全にはわかっていません。
多くの場合、歯が存在するとこの上顎洞と上顎の骨の距離は一定の幅がありますが、歯周病等で骨が吸収してしまうと上顎と上顎洞との距離が薄くなってしまいます。
その結果インプラントを行えないことがあります。

上顎洞

A. 歯がある状態で上顎洞までの距離があり、十分な骨の高さがある。
B. 歯を失った後でも上顎洞までの距離があり、十分な骨高さがある。インプラントを行うのに問題はない。
C. 歯周病等で骨が吸収してしまったために上顎洞までの距離がなくなり、インプラントを行うのに十分な骨の高さがない。
上顎にインプラントを希望する患者さんの多くは(60%以上)このような状態である。
このように歯を抜いた場所は年々やせて、場合によっては1~2mm程度の幅しかない方もいます。

上顎洞まで骨の高さがある状態 上顎洞まで骨の高さがある状態 上顎洞まで骨の高さがない状態 上顎洞まで骨の高さがない状態

ソケットリフト法

上顎と上顎洞との距離が狭く、そのままではインプラントは不可能であるが、 5mm以上の距離がある場合に行う方法です。
通常インプラントを行うのには最低10mm(予知性のある治療を行うのに必要な最低限の骨量と考えている)の骨の高さが必要であるが、ソケットリフト法を応用すれば 5mmの骨の高さがあればインプラントを行うことができます。
治療自体はインプラントの穴を形成する器具を使用しないため通常のインプラトを行う場合よりも痛みや腫れがない治療法です。

上顎と上顎洞との距離が狭い インプラントを行うことが可能 ソケットリフト法

ソケットリフト症例

右上奥歯に歯がないため、同部にインプラントを行うことにしました。しかし、上顎洞(前説明図参考)が存在するため、インプラントを埋入するための場所がありません。そこで手前2本はソケットリフトを行い一番奥は斜めにインプラントを埋入する計画をたてました。

治療前 ソケットリフト症例

治療前のレントゲン:
上顎洞(自失印)が存在するためインプラントが入る高さ(黄色矢印)がありません。そのまま埋入するとインプラントが上顎洞に突抜けてしまいます。

レントゲンシュミレーション:
そこで手前2本はソケットリフトを行い、一番奥歯は斜めにインプラントを行う計画をたてました。

レントゲンシュミレーション

ソケットリフトの成功率

現在一般的に行われているソケットリフト法とはインプラントを埋入する骨の高さがない場合にオステオトームという円柱状のノミのような器具を用いて上顎洞を挙上する方法です。(治療方法については“ソケットリフト”を参照)
1994年にSummers RBらによって初めて発表された治療法です。
以下はオステオトームを使用したソケットリフト法の成功率についての報告です。

研究者(発表年) 観察本数 観察期間 成功率(%)
Ioannidou E(2000) 79 8ヶ月 100
Horowitz RA(1997) 34 平均5.9年 97
Horowitz RA(1997) 143 平均18ヶ月 96
Tong DC(1998) 1092 最長60ヶ月 87~98

結論

オステオトームを使用したソケットリフト法はまだ臨床に応用されてから8年(2002年現在)程度のしかたっていないが、通常のインプラント埋入と比較してもなんら劣ることはありません。それどころか通常のインプラント治療と比較して患者さんへの負担が非常に少ないのもこの治療法の特徴です。
施術者にとってもこのテクニックは難しいものではなく、今後骨の高さがないケースにおいて一般的になっていく治療法であると考えられます。