院内感染の基礎知識

院内感染についての基本的な知識について簡単に説明したいと思います。

ここでは院内感染についての基本的な知識について簡単に説明したいと思います。
まず院内感染が考えられるウイルスおよびその感染対策について説明したいと思います。
歯科治療において抜歯等の血液が関与する治療は多くあります。血中ウイルスとして、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、エイズウイルス(HIV)などがあります。そして感染経路として歯科治療におけるウイルスの感染は針刺し事故(医療従事者の感染)、使用器具からの感染が考えられます。
以下には上記したウイルスについての基礎知識を記載してあります。興味のある方は読まれて下さい。

B型肝炎ウイルス(HBV)

現在日本ではB型肝炎を発病している人およびキャリアの数は約 150万人存在するとされています。

現在日本ではB型肝炎を発病している人およびキャリア(肝炎ウイルスをもっている人)の数は約 150万人存在するとされています。しかしキャリア(肝炎ウイルスをもっている人)の人全てが発病しているということはありません。キャリアの人の約10%程度が発病を起こす可能性はありますが、それ以外の人は発病しません。それは肝炎ウイルス自体が生体に問題を起こすことはないからです。
肝炎の発病のメカニズムは生体内に存在する肝炎ウイルスを体が異物とみなすとリンパ球が肝炎ウイルスの住みついている肝細胞を攻撃します。そして肝細胞の一部分は破壊されます。その時に生体は肝細胞を再生させようとしすますが、その一部分は再生できずに繊維化してしまいます。繊維化した状態が進行し、健全な細胞が少なくなってきた状態を肝硬変といいます。そしてまれに肝癌へと進展することもあります。B型肝炎で問題となるのは劇症肝炎になったときです。劇症肝炎の発症率は1~2%程度とされていますが、劇症肝炎にかかると生死にもかかわることがあります。
B型肝炎ウイルスは 2~3歳頃に感染した場合はキャリアになる可能性がありますが、年齢が高くなるにしたがいキャリアになる確率は低くなり、成人が感染した場合は急性肝炎となる場合がほとんどで慢性肝炎にはほとんどなりません。キャリアの方が肝硬変になる確率は4~5%程度とされています。またB型肝炎の場合は自然に治癒する可能性もあります。

感染経路としては

  1. 輸血や血液製剤によるもの
  2. 注射器や針治療等の医療事故によるもの
  3. 母子感染
  4. 性行為
  5. 入れ墨の使用針、麻薬使用時の針

等があります。
しかし、通常の生活では感染することはありません。肝炎の方とハシを共通して使用したり、触れる程度では感染はしません。また肝炎の方の血液が手についた程度では感染はしません。血液がついた部分に傷があり、しかも付着した血液を傷口を広げて入れ込まない限り内部にウイルスが侵入することはありません。もし血液が付着したら、すぐに洗い流すことが必要です。血液をそのままにすると固まった血液の内部にウイルスが残存する可能性があるからです。

(1)(2)(3)は現在その予防対策が確率してきておりほほ問題はなくなっています。しかし(4)や(5)では感染する可能性はあります。

医療現場での予防対策として WHOが推奨しているものは、

  1. グルタラール
  2. 次亜塩素酸ナトリウム
  3. 80%エタノール
  4. ボビドンヨード
  5. イソプロパノール

があります。

C型肝炎ウイルス(HCV)

現在日本ではC型肝炎にかかっている人およびキャリアの数は約 200万人以上存在するとされます。

現在日本ではC型肝炎にかかっている人およびキャリア(型肝炎ウイルスをもっている人)の数は約 200万人以上存在するとされ、B型肝炎ウイルスより感染力は弱いとされ、針刺しによる感染の危険性は非常に低い( 1%以下)ですが、初感染後高率に慢性化し、慢性肝炎、肝硬変、肝癌へ進展することもあります。C型肝炎ウイルスに感染した人の40%は急性肝炎になるだけですが、残りの60%はキャリアになり慢性腎炎へと進展します。
肝臓ガンにかかる方の90%以上が肝炎ウイルスからとされ、そのうちC型肝炎が75%以上を占めており、B型肝炎が残りのほとんどを占めています。
またC型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスと異なり、年齢にかかわらずキャリアになる可能性があります。このことがC型肝炎ウイルスが問題となっているものです。そしてB型肝炎と異なり今のところワクチンは存在しません。

感染経路としては

  1. 輸血や血液製剤によるもの
  2. 注射器や針治療等の医療事故
  3. 入れ墨の使用針、麻薬使用時の針

等があります。しかしB型肝炎と違い母子感染や性行為での感染は非常に少ないとされています。

また以前はC型肝炎の感染経路のうち輸血や血液製剤によるものが40~50%程度とされていますが、現在ではそれらから感染する可能性はほとんどありません。C型肝炎の感染力は非常に少ないのもですが、感染をするとキャリアとなる可能性が高く、自然治癒の可能性も低くなります。しかしC型肝炎は先程説明したように感染経路が非常に限られてきますので輸血等での感染機会がほばなくなった現在では注意をしていれば大きな問題はありません。
消毒方法はB型肝炎ウイルスと同様である。

エイズウイルス(HIV)

エイズウイルスは感染者の血液、精液、膣分泌液、唾液、母乳に認められます。血液と精液は同量のウイルスを含み、唾液はその1/10といわれています。感染力は弱いため、針刺しによる感染率は0.13~ 0.7%とされています。 有効消毒薬としてWHOが推奨しているものは

  1. 次亜塩素酸ナトリウム(0.5%:10~30分)
  2. ホルムアルデヒド(5%:10~30分)
  3. 消毒用エタノール(70%:10~30分)
  4. グルタラール(2%:10~30分)
  5. 煮沸消毒:20分
  6. 高圧蒸気滅菌(121℃:20分)
  7. 10%及び1%ポビドンヨード液

※注意事項
先にも話しましたようにHBV,HCV,HIV等キャリアの方は多くいらっしやいます。
しかし、日常の生活を送っているかぎり問題はありません。ところが、正しく理解していないばかりに患者さんやキャリアの方は無意味な警戒をされたり、特別扱いされたりすることもあります。

高水準消毒液

グルタール

グルタールは高水準の消毒薬であり、グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルス、芽胞に有効な薬材です。薬材効果は非常に高いですが、手指、皮膚などへは手荒れを招く場合が多いため生体に使用されることはあまりありません。主として高圧蒸気滅菌が使用できないプラスチック製品等の消毒に用いられます。

中水準消毒液

a.エタノール

エタノールは古くから使用されている消毒薬で、グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルスに有効であるが、芽胞には無効です。医療用としては消毒用エタノール(70w/w%)として使用されています。
使用方法としては速効的であり揮発性が高いためガーゼや脱脂綿に含ませ、手指や手の触れる器具等の消毒に用います。

b.ポビドンヨード

皮膚に対する刺激が少なく、グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、B型肝炎ウイルス、エイズウイルスに有効である。手術部位の皮膚や皮膚の創傷部位をはじめ幅広く使用されています。持続効果においてはクロルヘキシジンよりも劣ります。

c.次亜塩素酸ナトリウム

低濃度においても速効的で、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、一部の芽胞に有効であり、B型肝炎ウイルス、エイズウイルスに対して信頼のおける消毒薬である。
しかし、金属に対する腐食性が高いためガラスやプラスチック製品などに使用されています。手指、皮膚などへは手荒れを招く場合が多いため生体に使用されることはあまりありません。歯科領域では歯の根の中の消毒に使用されています

低水準消毒薬

グルコン酸クロルヘキシジン

皮膚に対する刺激が少なく、グラム陽性菌、グラム陰性菌、多くの真菌に有効な薬剤です。
結核菌、多くのウイルス、芽胞には無効である。口腔内はグラム陽性菌、グラム陰性菌が多く存在しており、持続的な抗菌作用を発揮するため皮膚等の消毒やうがい薬として使用されます。

その他の消毒、殺菌法

熱水消毒

熱水や蒸気を用いて 65~100℃の温度で処理する方法は、有効で安全かつ経済的な消毒法である。例えば80℃10分間の処理により、芽胞を除くほとんどの栄養型細菌、結核菌、真菌、ウイルスを感染可能な水準以下に死滅または不活化することができる。
高圧蒸気滅菌器( 121℃、 2気圧で、30分間)

紫外線

254nm付近の波長を持つ紫外線を照射することによって微生物を殺菌する方法です。
紫外線が照射された部分でしか効力を発揮しないため照射の死角部分は殺菌できないのが欠点です。通常は滅菌された器具を保管する際に使用されます。